近ごろは手紙やはがきを出すこともなく、切手もあまり使うことがないかもしれませんが、郵便局で名作絵画などの美術品を題材とした切手が発行されているのをご存知ですか?小さいながら、思いがけず美の世界へと誘ってくれます。今回は「青の世界」、美術館へ行けなくても芸術の息吹にふれたり、さまざまな作品を知る手がかりにもなります。
シリーズ第1集美術の世界〜青の世界〜
郵便局の窓口では、普通切手をはじめ、人気のキャラクターや自然・風景・美術など、さまざまな題材を描いた特殊切手を発行しています。今回、窓口でみつけた美術の世界〜青の世界〜は、切手マニアでもない私でさえ思わず見入ってしまうほどでした。
西洋から日本まで世界の絵画や陶芸の名品など、極小の空間にミニチュア化され、まるで小さな美術館に出会ったよう。10枚の作品が惜しげもなく散りばめられています。
多様な作家の画風をこんな風に見比べることができるのは、切手ならではの粋なはからいじゃありませんか。
心ゆさぶる青の世界、西洋でも日本でも、美術のなかでは青は伝統的な色のひとつです。美しい青色を放つラピスラズリの顔料は、古代から崇高な色として珍重されていたそうです。
日本へ伝わったあとは群青色の岩絵の具として用いられるようになりました。江戸時代の酒井抱一の燕子花図も、北斎の浮世絵も、青の色彩が際立っていますね。
また、西洋美術のモネの睡蓮やローランサンのやさしい筆づかい、知らなかった作品も鑑賞のきっかけとなって、機会があれば美術館まで足を運んでみたいものです。
北斎からモネまで一挙に
「染付兎水葵図大皿」(伊万里焼)東京国立博物館蔵
伊万里焼は、現在の佐賀県で江戸時代の初めから生産された磁器です。酸化コバルトの絵の具で 白地の磁器に絵を描き焼成する技法は、染付と呼ばれます。この作品は江戸時代後期のもので、やや 淡い青色を地とし、白色で流水と水葵 、二羽のウサギを配しています。渦を巻くように デザインされた流水、可憐な水葵、擬人化されたようなウサギの表情が見どころ。
酒井抱一「四季花鳥図巻」(部分)東京国立博物館蔵
酒井抱一 (さかいほういつ/1761~1829)は姫路藩主の子として江戸に生まれ、各種の絵を学んだ後、尾形光琳の作風に傾倒しました。光琳風のデザイン性あふれる構図、明快な彩色に特徴があり、彼とその後継者を江戸琳派と呼びます。ここに描かれたかきつばた花の形や鮮やかな青色は、光琳の代表作 「燕子花図屏風 」(根津美術館蔵)を下敷きとしています。
葛飾北斎「富嶽三十六景 甲州石班沢」すみだ北斎美術館蔵
葛飾北斎( かつしかほくさい /1760~1849)は、70年の画業のなかで、日本絵画のさまざまな流派や西洋画法を取り入れ、多彩な画風を生み出しました。作品では『北斎 漫画』と呼ばれる絵手本など、多くの作風を 展開しました。「冨嶽三十六景 」は、1831(天保 2)年頃に出版された代表作で、全 46 図からなり ます。 「甲州石班沢 」は漁の様子を描いたものとされます。青色の濃淡によって川岸の奇岩と複雑な波頭、平行に描かれた遠景の水流、霞んだ富士山の稜線を表現し、張り詰めた空気をとらえています。
竹内栖鳳「アレ夕立に」高島屋史料館蔵
竹内栖 (たけうちせい ほう/1864~1942)は京都で生まれ、江戸中期から流行した円山 四条派の流れをくんでいます。綿密な写生をベースに、西洋画の空気感を取り入れた画風で日本画に新風を吹き 込みました。1909(明治 42)年に制作されたこの作品は、青い着物と扇面の赤・金の対比が効果的です。
黒田清輝「湖畔」東京国立博物館蔵
黒田 清輝 (くろだせいき/1866~1924)は 1884(明治 17)年に渡仏、現地の画家ラファエル・コランに師事し、 外光をとりこんだ清爽な画風が特徴です。帰国後は東京美術学校の西洋画科教授として後進の指導にもあたり、文化財行政にも携わりました。「湖畔」は 1897(明治 30年)、箱根の芦ノ湖に 避暑に訪れた黒田が、照子夫人をモデルに描いたもの。着物、湖水、遠山はいずれも淡い青で 描かれ、夏の涼やかな風が伝わってきます。
横山大観「雲中冨士」東京国立博物館蔵
横山大観(よこやまたいかん/1868~1958)は、東京美術学校(現在の東京芸術大学)の一期生として岡倉天心や橋本雅邦の指導を受け、近代日本画の第一線で多様な画風を展開しました。1913(大正 2)年頃に描かれた本図は、金地に白雲と濃い青の富士山のみを単純化して描いており、琳派のデザイン性を 強く意識したもの。頂部の残雪が、青い稜線を際立たせています。
オディロン・ルドン「グラン・ブーケ(大きな花束)」三菱一号館美術館蔵
オディロン・ルドン(1840~1916)は、フランスで活躍した画家です。同時代に流行した印象派 の鮮明な色彩には批判的で、はじめはモノクロームや重い彩色を試みましたが、晩年には幻想的な 彩色へと変化しました。
マリー・ローランサン「ヴァランティーヌ・テシエの肖像」ポーラ美術館像
マリー・ローランサン(1883~1956)は、フランス・パリで活躍した女性画家です。甘美な人物描写、パステルカラーの幻想的な彩色で知られています。本作は 1933 年、 女優ヴァランティーヌ・テシエをモデルに描いたもので、紫に近い青色の衣を身にまとい、舞台で 演技するかのようなポーズをとっています。透けた衣から見える白い肌が、画面全体に軽快な印象を与えています。
クロード・モネ「睡蓮」国立西洋美術館蔵
クロード・モネ(1840~1926)はフランスの印象派を代表する画家です。晩年、パリ郊外の ジヴェルニーのアトリエ兼自宅に日本風の庭園を設け、池に浮かべた睡蓮 すいれん を観察して連作を描きま した。本作は、日本国内にある「睡蓮」としては屈指の大作で、緑がかった池に、青紫色の睡蓮の葉が溶け込むように描かれ、赤やピンクの花がアクセントとなっています。
並河靖之「紫陽花花図花瓶」(七宝)清水三年坂美術館蔵
並河靖之 (なみかわやすゆき /1845~1927)は近代に活躍した七宝の大家です。帝室技芸員として、皇室関係の制作も行いました。並外れた精密なテクニックによって、近年、再評価されています。 透明感のある黒を背景に、ごく淡い青の紫陽花 あ じ さ い を浮かび上がらせることで、遠近感と立体感を見事 に表現しています。
参照:https://www.post.japanpost.jp/kitte_hagaki/stamp/tokusyu/2019/pdf/0175.pdf
お部屋のインテリアにも
切手を額に入れる
切手コレクターに聞けば、切り離したりせず大切に保管しておきなさいと言うかもしれません。
でも、こんなに美しい切手を引き出しにしまっておくのはもったいないので、気軽に飾って楽しみましょう。
自分の好きな作品を1枚ずつ額に入れると、見違えるほどおしゃれなインテリアに早変わり。
小さな額縁はダイソーでみつけたのですが、木の質感がすっきりとしたデザインのフレームや色がきれいなカラフルなもの、アンテークなゴールドにブラウンの落ち着いた仕上げなど、種類もいろいろあって迷うほどです。
こんなふうに気軽に、自分の部屋や窓際、ちょっとした空間など、さりげなく飾ってインテリアにできるのです。たとえ古切手でも、フレームに入れると小さなアートに早変わりです。
商品情報
840円 発行日 2020年10月16日(金)
- シート単位の販売(のり式の商品は郵便局では1枚単位で購入できます)
- ほぼ同様のデザインで63円シートもあります。
- ネットでも買えるので検索してみてください。
まとめ
切手の図案は、国宝、浮世絵、動植物、風景、建物、キャラクターなど多種にのぼります。送られてきた郵便物にも記念切手が貼られている場合があるので、剥がして飾ってみるのも楽しいのではないでしょうか。